10月の初旬に私が卒業した山梨大学の同窓会である山梨工業会から以下のような案内が舞い込んだ。演者の遠藤氏は案内にあるように同大の応用化学科卒業であり、この学科は無機化学の分野であるが、卒業後この会社の前進である(株)白麦米に入社して、技術開発のリーダーとして数々の技術開発を行ってきた。そして同族経営の中で先頃専務取締役までになった。入社以来30年莱おつき合いしてきたが、誠実である一方で、ものの見方が本質的かつ論理的で妥協がない。また外見とは違い非常に挑戦的である。昨年9月私が企画したベトナム国立食品工業研究所でのワークショップ開催にもお忙しい中、参加していただき講演もしていただいた。
はくばくは直近で170億にも及ぶ山梨県内に本社を有する代表的食品企業で、大麦を中心とした穀類の加工メーカーとしては国内トップのシェアを占めている。
私は何としても聞いてみたいと思い駆けつけた。多くは学生の皆さんで、学外関係者が少なかったのは残念であった。2時間の講演はあっという間に過ぎてしまった。常に消費者の意識変化や時代を見た技術開発、その取り組方の論理性、取り組みに妥協を許さず目的の商品を開発する意志の持続性を感じた。そして、そのための計画的な人材育成を進めた会社経営陣の素晴らしさである。遠藤氏は入社後まもなくドイツに長期派遣されているが、当時の同社にとっては思い切った人材育成であろうと思われるが、これに応えた遠藤氏の研鑽もさすがであるが、会社の人を見る目も確かあったことが分かる。この講演は遠藤氏が手がけた入社後の技術開発に関する自叙伝的物語ではあったが、新商品開発を手がける時の情報分析、取り組み方、開発手法、出口である宣伝、販売手法等、会社の着実な伸長が単なるアイディアや偶然性ではないということが技術に関わるものとして良く理解できた。とかく思いつきや目先のことのみで右往左往している中小企業が多い中、苦しい経営の中でも具体的なプランを持って先のことを考える重要性をひしひしと感じざるを得なかった。自分自身の研究生活を振り返り、商品開発は中途半端、学者として地域公設研究機関としては人並み以上に研究発表、研究論文の数だけはこなしてきたが、実際に世の中にどれだけ貢献できたかを思うといささか自信はない。もちろん、公務員研究者としての制約があるとの言い訳はできるものの、こうした実学の分野での研究開発や商品開発のプロセスを突きつけられると、恥ずかしい気持ちもあるが、ただ、感動した一時であった。
山梨工業会からの案内
日 時:10月21日(水)16時30分~18時30分
>> 場 所:山梨大学工学部 A2号館21教室
>> 講演者:株式会社はくばく
>> 取締役 専務執行役員 遠藤好司 氏 (応用化学科 昭和49年卒)
>> 講演題目:「㈱はくばくで体験した企業の成長のトリガーとなる商品開発」
>> 講演概要:穀物価格の乱高下、原材料価格の高騰や安全・安心に対する信頼の回復等、食を取り巻く情勢は一段と厳しさを増している。そうした困難な時代に企業が成長を続けるには、顧客、技術、競合等の環境への適合力を持つことが不可欠であり、その時代に相応しい商品開発が大きな鍵を握る。㈱はくばくで携わってきた商品開発の事例を紹介しながら、厳しい時代に直面する企業人としての在り方を考える。